【本の紹介】地域再生の戦略(宇都宮浄人著)


公共交通の復権について多くの著作を持つ、宇都宮氏の新刊です。
本書の主旨は、これまでの宇都宮氏の著作と同じです。すなわち、「公共交通は単独の事業採算性だけで価値を判断すべきではない。赤字になりそうな路線は作らない、今赤字の路線は廃止する、でいいのか。それは日本の都市をダメにしているのではないか」ということです。
この問いかけは宇都宮氏の多くの著作の中で一貫して投げかけられていますが、本書ではそれについての解答にヒントとなりうる事実について、最新の情報を紹介しています。
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【車両紹介】プラハ市電の電車たちPart4- タトラT3 / Rolling stock of Prague tram Part4 – Tatra T3

Výstaviště付近を走るタトラT3 / A Tatra T3 near Výstaviště.

Výstaviště付近を走るタトラT3 / A Tatra T3 near Výstaviště.


プラハの市電で圧倒的な最大勢力であるのが、このタトラT3です。
後継車が登場している状況でもなお、673両も在籍(2011年末現在)しており、またプラハ以外の旧共産圏の街にも多数が在籍しています。プラハ向け以外も含めた総生産両数は実に130000両以上に達し、文句なく世界で最も大量に生産された路面電車車両と言うことができます。
1960年から製造され、1990年代までの長きにわたり造られていましたが、プラハ向けには1960年から1989年まで製造されました。
所謂「丸タトラ」と呼ばれる丸みの強い車体が特徴で、少し愛嬌のある好ましいスタイリングに感じられます。おでこには系統番号表示はありますが行先表示機はなく、行先はフロントガラス内にプレートを掲出して示していました。また系統番号表示は、プレートを車外に取り付けてあるものと、表示窓のあるものの2種類が見られました。 続きを読む

【車両紹介】プラハ市電の電車たちPart3- タトラKT8D5 / Rolling stock of Prague tram Part3 – Tatra KT8D5

更新前のタトラKT8D5。Tusarovaにて / A Tatra KT8D5 at Tusarova.

更新前のタトラKT8D5。Tusarovaにて / A Tatra KT8D5 at Tusarova.


タトラKT8D5は、1986年から1990年まで納入された3車体4台車の連接車です。
プラハ以外では、オストラヴァ、ブルノ、コシツェなど主に旧チェコスロバキア国内で姿を見られますが、特異なところでは北朝鮮・平壌向けにもまとまった数が輸出されており、現在でも多数が働いているようです。プラハ市電では46編成が在籍しており、その他に更新工事(後述)を受けなかった車両が市電博物館の保存車として1編成存在します。
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【本の紹介】うみまち鉄道運行記 -サンミア市のやさしい鉄道員たち-

今回は柄にもなくライトノベルをご紹介します。
といっても、ノベルとして重要であるところのストーリーのことは、私よりもっと適切などなたかが批評して下さるでしょうから、ここではもっぱら鉄道ファンとしての見地から、鉄道描写に絞ってご紹介したいと思います。

●アメリカのインターアーバンがまだ元気だった時代という、異色の舞台
本書の舞台は、サンミアという架空の街を中心に展開するインターアーバン、サンミア湾電鐵という架空の鉄道です。年代設定ははっきりとは明かされていません。
といっても、表紙に描かれた電車の形状、「羽と鍵」という社章の表現、上下二段式の鉄道道路併用橋が出てくるところからして、アメリカ・サンフランシスコにかつて存在したインターアーバン、「キー・システム」がモチーフであることは明らかです。
もっとも、線路が高架で街路の上を走り、道路の交差点上で線路も一緒に極小半径で曲がったりもしますから、シカゴ・Lあたりの高架鉄道も混じっているでしょうか。
それから、ライバル鉄道の最新型特急車「ストラト・ライナー」として登場するのは、文中の形状描写からしておそらく1934年登場の画期的な高速列車、パイオニア・ゼファーがモチーフでしょう。パイオニア・ゼファーが最新型であり、一方で木造電車が作品中に登場してくる時代ということから、おそらくは1930年代が舞台でしょうか。
日本在住の読者を想定した小説としては珍しい舞台設定と言えますが、日本に比べ万事大雑把なアメリカ、それも過去の時代が舞台となれば、本書で語られる(現代日本の社会では到底考えられないハチャメチャな)エピソードの数々もさして非現実的とは感じさせません。
それに何と言っても、重厚な三軸台車を履いた連接電車、周囲に強烈な印象を与えていたであろう黎明期のステンレスカー、ダークレッドに塗られた車体からトロリーポールを生やした木造電車など、この国・この時代ならではの登場電車群が実に魅力的なのです。
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【写真】富山地鉄 ちてつ電車フェスティバル2014前夜祭レポート Part2

Part1からの続きです。

地鉄ホテル屋上での撮影後、小休止ののち電鉄富山駅の改札前に移動します。
今後の行程を説明されますが、そこで担当者氏の口から出てきたのは「明日のイベントで展示するため、軌道線の電車を南富山から稲荷町まで回送します。これからそれを撮影します」という驚きの言葉。
最初に渡された行程表にもなかったサプライズに、参加者からは一様に「おぉ~」という声が漏れます。
「稲荷町~南富山間のお好きなところで撮影をどうぞ。撮影地が分からない方は大泉がお勧めです」とのことで、もちろん私は「撮影地が分からない方」ですから大泉へ向かうことにします。

大泉で降りてみると、線路沿いに道があって柵もなく、これは確かに撮りやすいです。構えて数分で近くの踏切が鳴り出し、列車がやってきました。先頭に立つのはどう考えても保線用モーターカーにしか見えないDL-12ですが、鉄道車両としての車籍を持っているので堂々と昼間に本線上を走れるわけですね。

DL-12に牽引されるデ7000型。

DL-12に牽引されるデ7000型。

撮影を終えて、次の電鉄富山行き電車で一同は稲荷町に移動、いよいよ次は夜間撮影会です。
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【写真】富山地鉄 ちてつ電車フェスティバル2014前夜祭レポート Part1

去る2014年11月1日、富山地方鉄道(富山地鉄)で鉄道ファン向けに「ちてつ電車フェスティバル前夜祭イベント」が開催されました。今回そのイベントに参加して、鉄道ファン向けの濃い演出が盛りだくさんの中身を堪能してきましたので、皆様にお伝えしようと思います。

当日の13:50、電鉄富山駅の改札前にて受付し行程表を受け取った後、参加者一行は地鉄ホテル11階の宴会場へ移動します。大きな窓から見える富山駅の眺望に、早速カメラを持った人だかりができますが、窓の反射が気になるなぁ……という気がするのも正直なところ。
富山地鉄鉄道部営業課の担当者の方から、挨拶と注意事項の説明があり、続いて「すぐに屋上に移動しますよ」とのお言葉。低いどよめきが参加者から漏れます。
業務用の階段を上って屋上に着くと、東に富山地鉄と北陸新幹線(残念ながら北陸線はほぼ新幹線の高架の陰)、北に富山ライトレール、西・南に市内電車と、どの角度からでも電車を撮れる素晴らしいロケーションです。
一番人気はやはり電鉄富山駅に出入りできる電車が見える東側。

入ってきた14720型の列車には、ファインダー越しに目を凝らすと方向板がついているのが分かります。地鉄の担当者氏によれば「今回のためにサプライズで付けました」とのことで、早速気分が盛り上がります。

方向板付きの14720型。

方向板付きの14720型。

渡された行程表には親切にも発着時刻表(しかも使用形式入り)が記されていますが、「(臨時)」との表記が入った列車も2往復記されており、どうやら今回の被写体になるために仕立てられた列車のようです。

やってきた臨時列車は、ラッシュ時専用となった10020型+クハ175の3連。特急うなづき号のヘッドマークも装着しています。同形式は運用の機会がごく限られますので、走行シーンを撮影できただけでも満足ですが、そのうえヘッドマーク付きの姿でますます満足です。
この列車、駅に近づくと通常より大幅に遅い速度となり、撮影しやすいよう配慮していただけたようです。

うなづき号のヘッドマークを付けた10020型。

うなづき号のヘッドマークを付けた10020型。

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【車両紹介】プラハ市電の電車たちPart2- タトラT6A5 / Rolling stock of Prague tram Part2 – Tatra T6A5

5系統で走るタトラT6A5。Tusarovaにて / Tatra T6A5 at Tusarova

5系統で走るタトラT6A5。Tusarovaにて / Tatra T6A5 at Tusarova


タトラT6A5は、1991年から1998年まで製造された車両です。うちプラハ向けには1995年から1997年まで導入されました。すでに東欧革命を経て共産主義政権が倒れた後の導入ですが、共産主義諸国の標準車として有名なタトラカーの系譜をそのまま引き継ぐスタイルとなっています。

T6A5はプラハのほか、チェコのブルノ、オストラヴァ、スロバキアのブラティスラヴァ、コシツェに導入されており、総勢約300両が製造されています。
いわゆる角タトラの世代では他に旧ソ連向けのタトラT6B5(約1100両)、東ドイツ向けのT6A2(約350両)などがありますが、先代のタトラT3(いわゆる丸タトラ)グループの約14000両という製造両数に比べると比較的少数派です。

プラハには148両が在籍(2011年末時点)しており日本的感覚では相当な数ということになりますが、なにしろプラハ市電全体では972両も在籍していますので、私がプラハを訪問した際も相対的に存在感は小さめでした。

車体はタトラT3と同じく一般的な4軸ボギー車で、全長も約15mと日本人にもなじみのあるサイズです。
3扉車という点もタトラT3と同じですが、タトラT3が4枚折戸を装備するのに対しこちらはスイング扉となっています。他都市のタトラT6A5は4枚折り戸になっているものもありますが、プラハでは見かけたT6A5の全てがスイング扉でした。これが納入時からそうなっているのか、後天的な改造によるものなのかは不明です。
制御方式はサイリスタ制御で、モーターは45kW×4機を装備しています。以前の記事でもご紹介したとおり、日本のサイリスタ制御車にはない、極めて珍妙な走行音を発します。車内は1+2配置の前向きシートが並んでおり、私が乗車した範囲ではすべての車両で自動放送も流れていました。

【車両紹介】プラハ市電の電車たちPart1- シュコダ14T / Rolling stock of Prague tram Part1 – ŠKODA 14T

以前の記事で、都市交通博物館に展示されているプラハ市電の旧型電車を取り上げましたが、そのときの来訪(2009年)で現役車両も撮影していますので、折角ですのでそちらも取り上げていこうと思います。
プラハ市電の車種は大きく分けて4車種あり、シュコダ14T、タトラT6A5、タトラKT8D5、タトラT3(以上は新しい順)が現役車両として運行されていました。ほかに、最新型車両としてシュコダ15Tがあり、これは訪問当時プロトタイプ車が試験中でしたが(なお現在は通常運行に供されています)、残念ながら目にすることができませんでしたので、割愛します。

今回より上記4種の車両を新しい順に取り上げていこうと思いますので、まずはシュコダ14Tからご紹介します。

Výstaviště(ヴィスタヴィシチェ)付近を走る14T / 14T tramcar runs near Výstaviště.

Výstaviště(ヴィスタヴィシチェ)付近を走る14T / 14T tramcar runs near Výstaviště.


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【本の紹介】インドネシア鉄道の旅 – 魅惑のトレイン・ワールド(古賀俊行著)

●インドネシアの鉄道に関しては決定版か
ジャカルタ首都圏への日本中古電車投入で注目を浴びるインドネシアですが、それだけがインドネシアの鉄道じゃないんだということを認識させてくれる本です。インドネシアの鉄道の総延長は約4000kmとのことで、幹線には客車を何両も連ねた優等列車が走り回り、ジャカルタでは10両編成の通勤電車が活躍と、東南アジアでは有数の鉄道大国と言えそうです。
本書のページ数は300ページ近くあり、その中にぎっしりと情報が詰め込まれていて、インドネシアの鉄道についてはおそらく決定版と言える内容です。

●「鉄道の旅」だけに留まらない内容
タイトルこそ『インドネシア鉄道の旅』という、一見旅行記的なものですが、内容はインドネシアの鉄道についてあらゆる内容を網羅しており、「旅」だけに留まりません。
インドネシアにおける鉄道の歴史、幹線鉄道の概要、路線図といった総説的なところはもちろんのこと、国鉄ほぼ全路線の概要や乗車記、各車両形式についての解説なども掲載されています。日本人鉄道ファンに人気のジャボデタベック電鉄線についてももちろん掲載されており、車両解説や沿線風景などが約20ページを割いて書かれています。ジャボデタベックの鉄道というと、日本に入ってくる情報はどうしても日本製中古電車の現状が中心になってしまいますが、本書では創業期からの電鉄線の歴史や、工事中の地下鉄プロジェクトなど、他では取り上げられにくい内容も載っています。
一方、都営地下鉄からの電車が初めてジャカルタに渡るまでは、インドネシアの鉄道といえば製糖工場の蒸気機関車が日本ではよく取り上げられていた記憶がありますが、こちらについても、今でも蒸気機関車を有する14箇所の製糖工場を紹介しています。バラストが殆ど無いヘロヘロ線路を小さな蒸気機関車が走る魅力的な写真が何枚も掲載されているばかりでなく、親切にも稼働中の蒸機に出会える可能性、行き方の難易度まで分かるよう書かれています。
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【音】プラハ市電 タトラT6A5 / [Sound] Prague Tram, Tatra T6A5

【音】プラハ市電 タトラT6A5 Husinecká→Těšnov
[Sound] Prague tram, TatraT6A5, Line5 Husinecká -> Těšnov

5系統で走るタトラT6A5。Tusarovaにて / Tatra T6A5 at Tusarova

5系統で走るタトラT6A5。Tusarovaにて / Tatra T6A5 at Tusarova

いわゆる「角タトラ」のうち、単車型であるT6A5の走行音です。角タトラには様々なバリエーションが存在しますが、連接型のKT4と、単車型ながら旧ソ連諸国向けでやや大柄なT6B5が多数派で、T6A5はチェコとスロバキアの5都市向けに約300両が製造されたのみ(日本の路面電車車両ならば、300両でもとてつもない大量生産ということになりますが、なにしろKT4DやT6B5などは1000両越えですので)となりました。そのうち半数の150両がプラハで活躍しています。
収録はプラハ中心部のHusinecká(フシネツカー)からHlavní nádraží(中央駅)、Masarykovo nádraží(マサリク駅)を経てTěšnov(テシュノ)まで、5系統の電車で行いました(なお、現在の5系統は経路が変更されており、Těšnovは通らなくなっています)。
T6A5はチョッパ制御を採用していますが、走行音は日本のチョッパ制御車とはかなり異なり、加速時こそ日本と同じく「ブー」という音を発するものの、減速時は言葉では表現できない独特の音となっています。日本ではまったく聴かれない音になっていますので、ぜひお聞きください。