発車して程なくすると、車掌さんがきっぷを売りに来ます。車掌さんは私服のおじさん(ついでにビール腹)。この鉄道は1998年に国鉄路線としては廃止され、2002年から愛好家の手による保存鉄道として再出発していますので、車掌さんもボランティアのようです。
車掌さんはあいにくドイツ語しか話せなくて、こちらもドイツ語といえば「Rückfahrkarte bitte.(往復券ください)」くらいしか発せない程度の語学力ですが、身振り手振りで「往復でいいの?」「うんうん」「4ユーロね」「OK」といったやり取りをして、無事購入。乗客は自分を入れて10人足らずで、みな地元周辺からピクニックにでも来た感じの乗客です。
レールバスは時速30キロくらいでゆっくりと走行し、途中に湖が見えるところではさらに徐行してのサービスがあります。唯一の途中駅、ヴァルドスィーファースドルフ(Waldsieversdorf)に停まると、3人連れが車掌と「チュース(バイバイの意)」と挨拶を交わしながら降りていきます。
相当ゆっくり走ったレールバスですが、なにしろわずか5キロの路線ゆえ、10分ほどで終点のブッコー・メルキッシュバイツに到着します。車掌さんは楽しげに「ブッコウ・メールキッシュヴァイツ♪」と車内へ呼びかけ。他のお客さんと同じように「チュース」と挨拶しながらホームに降り立つと、駅には小さな車両基地が同居していました。
これが本当は乗るはずだった279型。短い車体長、実用本位のスタイル、程よい古臭さと、田舎電車好きとしては鼻血が出そうな車両です。丸っこいレールバスも悪くはないのですが、やはりこちらに乗りたかったですね。レールバスのほうは他の保存鉄道でも乗れますし。
こちらの凸型電機もまた好ましいスタイルです。こちらはブッコー小鉄道の生え抜きではなく、近隣のシュトラウスベルク鉄道(現在も路面電車型車両を用いて盛業中ですが、貨物営業は廃止されています)から引き取ってきたものです。シュトラウスベルク鉄道のイベントの際に貸し出したこともあるそうです。
これはベルリンSバーンの旧型車(477系)ですね。もちろんこの鉄道で走ったことは無く、保存活動の一環として置いてあるのでしょう。編成丸ごと(2両)での保存は好印象ですが、落書きが残念。
電機の隣に居た入換機。黒いほう(1934年製のいわゆる「Kö I」と呼ばれるシリーズ)は極端に背が低くて特異なスタイルですが、後継機と合わせ、こういった形態の機関車はドイツ全土で見られました。
車両以外にも、ホームには標識やら腕木式信号機やら、いろいろガラクタが置いてあります。駅舎内には鉄道模型レイアウトもあり、この駅全体が鉄道ファンの趣味部屋を巨大化したもののような印象を受けるものでした。
いったん外に出て、駅舎の外観。いかにも田舎電車のターミナルといった感じで、大変良い印象です。
駅前広場には、この鉄道の歴史を解説した案内板が立っていました(しかもこんな田舎なのに二ヶ国語!)。町としてこの鉄道のことを後世に伝えようという想いが感じられるようで、嬉しい存在です。ただ、「Buckower Kleinbahn」を「Buckow Narrow Gauge Railway」と訳してしまっている(当鉄道は標準軌です)のはご愛嬌。
ちなみに帰国後歴史を調べると、ベルリンからの幹線鉄道に素通りされたブッコーの町の人たちが設立した私鉄として開業したということで、日本の小私鉄と同様の事情であることに親近感を感じます。ちなみに開業時は750mmゲージの非電化私鉄だったそうで、標準軌への改軌と電化は1930年とのこと。