【旅行記】ブッコー小鉄道訪問記2010(中)/ Visit of Buckower Kleinbahn in 2010 (Part 2)

発車して程なくすると、車掌さんがきっぷを売りに来ます。車掌さんは私服のおじさん(ついでにビール腹)。この鉄道は1998年に国鉄路線としては廃止され、2002年から愛好家の手による保存鉄道として再出発していますので、車掌さんもボランティアのようです。
車掌さんはあいにくドイツ語しか話せなくて、こちらもドイツ語といえば「Rückfahrkarte bitte.(往復券ください)」くらいしか発せない程度の語学力ですが、身振り手振りで「往復でいいの?」「うんうん」「4ユーロね」「OK」といったやり取りをして、無事購入。乗客は自分を入れて10人足らずで、みな地元周辺からピクニックにでも来た感じの乗客です。

レールバスは時速30キロくらいでゆっくりと走行し、途中に湖が見えるところではさらに徐行してのサービスがあります。唯一の途中駅、ヴァルドスィーファースドルフ(Waldsieversdorf)に停まると、3人連れが車掌と「チュース(バイバイの意)」と挨拶を交わしながら降りていきます。

相当ゆっくり走ったレールバスですが、なにしろわずか5キロの路線ゆえ、10分ほどで終点のブッコー・メルキッシュバイツに到着します。車掌さんは楽しげに「ブッコウ・メールキッシュヴァイツ♪」と車内へ呼びかけ。他のお客さんと同じように「チュース」と挨拶しながらホームに降り立つと、駅には小さな車両基地が同居していました。

ブッコーに到着したレールバス / A MAN VT arrived at Buckow.

ブッコーに到着したレールバス / A MAN VT arrived at Buckow.

 

ブッコーの小さな検修庫 / Small depot at Buckow.

ブッコーの小さな検修庫 / Small depot at Buckow.

これが本当は乗るはずだった279型。短い車体長、実用本位のスタイル、程よい古臭さと、田舎電車好きとしては鼻血が出そうな車両です。丸っこいレールバスも悪くはないのですが、やはりこちらに乗りたかったですね。レールバスのほうは他の保存鉄道でも乗れますし。

ブッコー駅構内で暇をもてあます279型 / A BR279 at Buckow.

ブッコー駅構内で暇をもてあます279型の制御車。電動車はクラの中で寝ていました。 / A BR279 at Buckow.

こちらの凸型電機もまた好ましいスタイルです。こちらはブッコー小鉄道の生え抜きではなく、近隣のシュトラウスベルク鉄道(現在も路面電車型車両を用いて盛業中ですが、貨物営業は廃止されています)から引き取ってきたものです。シュトラウスベルク鉄道のイベントの際に貸し出したこともあるそうです。

EL4型 / Two EL4 locomotives.

EL4型 / Two EL4 locomotives.

これはベルリンSバーンの旧型車(477系)ですね。もちろんこの鉄道で走ったことは無く、保存活動の一環として置いてあるのでしょう。編成丸ごと(2両)での保存は好印象ですが、落書きが残念。

ベルリンSバーンの477型 / Stored BR477 of S-Bahn Berlin.

ベルリンSバーンの477型 / Stored BR477 of S-Bahn Berlin.

電機の隣に居た入換機。黒いほう(1934年製のいわゆる「Kö I」と呼ばれるシリーズ)は極端に背が低くて特異なスタイルですが、後継機と合わせ、こういった形態の機関車はドイツ全土で見られました。

Kö型入換機 / Kö shunter.

Kö型入換機 / Kö shunter.

 

V22型入換機 / V22 shunter.

V22型入換機 / V22 shunter.

車両以外にも、ホームには標識やら腕木式信号機やら、いろいろガラクタが置いてあります。駅舎内には鉄道模型レイアウトもあり、この駅全体が鉄道ファンの趣味部屋を巨大化したもののような印象を受けるものでした。

ホームの入口 / Entrance of platform.

ホームの入口 / Entrance of platform.

いったん外に出て、駅舎の外観。いかにも田舎電車のターミナルといった感じで、大変良い印象です。

ブッコー駅舎 / Station building of Buckow.

ブッコー駅舎 / Station building of Buckow.

駅前広場には、この鉄道の歴史を解説した案内板が立っていました(しかもこんな田舎なのに二ヶ国語!)。町としてこの鉄道のことを後世に伝えようという想いが感じられるようで、嬉しい存在です。ただ、「Buckower Kleinbahn」を「Buckow Narrow Gauge Railway」と訳してしまっている(当鉄道は標準軌です)のはご愛嬌。
ちなみに帰国後歴史を調べると、ベルリンからの幹線鉄道に素通りされたブッコーの町の人たちが設立した私鉄として開業したということで、日本の小私鉄と同様の事情であることに親近感を感じます。ちなみに開業時は750mmゲージの非電化私鉄だったそうで、標準軌への改軌と電化は1930年とのこと。

ブッコー小鉄道の歴史を解説した案内板 / Information board of history of Buckower Kleinbahn.

ブッコー小鉄道の歴史を解説した案内板 / Information board of history of Buckower Kleinbahn.

案内板の内容 / Magnified image of information board.

案内板の内容 / Magnified image of information board.

つづく

【旅行記】ブッコー小鉄道訪問記2010(上)/ Visit on Buckower Kleinbahn in 2010 (Part 1)

2010年の夏、ベルリン東郊のさらに東を走る保存鉄道、ブッコー小鉄道(Buckower Kleinbahn)に乗りに行きました。
総延長はわずかに4.9km、沿線に観光地や有名撮影スポットがあるわけでもないこの鉄道になぜ乗りに行ったかといえば、279型なる小型電車が走っているらしいからです。その小さな姿も魅力なら、直流750V駆動・全長15mの二軸車という地方私鉄然とした車両ながら、れっきとした国鉄電車として生を受けたという点も面白く、ぜひ乗ってみたいと思っていたのでした。
この279型、走っているのはドイツ国内でたった二箇所だけで、ひとつはオーベルバイスバッハ山岳鉄道というドイツ中部テューリンゲン州の小路線で、もうひとつがブッコー小鉄道です。この旅行ではベルリンにしばらく滞在したので、ベルリンから容易に訪問可能なこの路線を訪ねることにしました。

この鉄道について日本語の情報は限りなく皆無に近く(「官製地図を求めて」に若干の情報があります)、たぶん本記事が日本初の訪問記ではないかと思います。ひょっとすると日本人の訪問自体初めてではないかという気がしますが、どうなんでしょうね。

さて、ブッコー小鉄道の始発駅ミュンヘベルク(Müncheberg)へは、ベルリン東部のターミナル駅、リヒテンベルク駅からローカル列車に乗ります。東西ドイツ分断時代は、長距離列車の発着駅として賑わったらしいのですが、現在はローカル列車とSバーンのみの発着で、長いホームと大きな駅舎を持て余しています。駅舎には「駅ナカ」もあるのですが、空き店舗もちらほら。
構内の端には旧東ドイツ国鉄が誇った特急気動車VT18が保存されていますが、コンディションはちょっとさびしい状態。

リヒテンベルク駅の片隅に保存されているVT18 / Preserved VT18 at Berlin-Lichtenberg.

リヒテンベルク駅の片隅に保存されているVT18 / Preserved VT18 at Berlin-Lichtenberg.

ここから出ているローカル線の一つが、ポーランド・コストシン(Kostrzyn)へ向かう系統です。この路線は「オストバーン(Ostbahn。東方鉄道の意)」と称され、そのまままっすぐ東へ向かうと、バルト海沿いのグダンスク Gdańsk(ドイツ語名ダンツィヒ Danzig)、ロシアの飛び地カリーニングラード Калининград(ドイツ語名ケーニヒスベルク Königsberg)まで線路がつながっています。第二次大戦前はいずれもドイツ領だったことから、重要な幹線だった筈ですが、現在は写真の通り2両編成の普通列車が往来するローカル線に成り下がっています。
行先は「Kostrzyn(PL)」と、ポーランドであることを強調して表示しており、車内放送も2ヶ国語で、鈍行とはいえ一応国際列車です。

ベルリンからのコストシン行きローカル列車。列車の運行業務はニーダーバルニム鉄道(Niederbarnimer Eisenbahn)によって行われていました / A Niederbarnimer Eisenbahn train from Berlin-Lichtenberg. Taken at Müncheberg(Mark).

ベルリンからのコストシン行きローカル列車。列車の運行業務はニーダーバルニム鉄道(Niederbarnimer Eisenbahn)によって行われていました / A Niederbarnimer Eisenbahn train from Berlin-Lichtenberg. Taken at Müncheberg(Mark).

リヒテンベルクを発車して30分ほど、ディーゼルカーはまっすぐな線路を快調に飛ばし、ミュンヘベルクへ到着しました。連絡通路には、ブッコー小鉄道の看板が出ており、それにしたがって連絡通路からホームへ上がると、客を待っていた車掌が「ハロー」と挨拶して迎えてくれます。

そしていよいよ279型との対面、と思ったのですが……

ミュンヘベルク駅に停車中のレールバス / A railbus at Müncheberg. This is replacement service of EMU.

ミュンヘベルク駅に停車中のレールバス / A railbus at Müncheberg. This is replacement service of EMU.

なんと、そこに停まっていたのはレールバスでした。ショック!

帰国してから調べたところによれば、2010年6月にトロリー線の盗難に遭ってしまい、やむなく電車運転を休止しているところだったようです(ちなみに2011年には修復され、電車運転に戻っています)。

とはいえ、いまどきこの古いレールバスに乗れるのも貴重ですので、気を取り直して乗ってみます。

つづく