スイスをはじめとしたヨーロッパの鉄道に造詣の深い著者による、バラエティ豊かなスイスの鉄道を解説した本。
メインは各路線ごとの紹介で、路線ごとに1ページ、または見開き2ページで、写真と短いテキストによって紹介されています。一路線ごとのボリュームはさほど大きくないものの、テキストは単なる沿線紀行ではなく、車窓風景、客層から運行形態、用いられる車両などが記され、急勾配や変わった電化方式など、特筆すべき点があればきちんと取り上げられています。
写真は、教会の尖塔や石造りの建物が並ぶ大都市、切り立った岩山や、周りの風景が映りこむ静かな湖面など、スイスの美しい風景をバックにしたものばかりで、スイスの鉄道の魅力を読者に伝えるに十分な写真群です。単に列車に乗るだけの旅行では、このような風景と列車の取り合わせをカメラに納めるのは不可能で、ロケハン、途中下車、天気待ちなど、乗車だけの場合に比べはるかに多くの時間がかかったことでしょう。スイス全土に広がる掲載路線すべてに対してこのような写真を用意することは、大変な労力がかかったことと推測します。
取り上げられている路線は、スイス国鉄の幹線や日本でも有名な登山鉄道だけでなく、ローカル私鉄も含めたスイス全土の特色ある路線です。1920年製の二軸電車を用いる路線(オルブ・シャヴォルネ鉄道)から、ラックレールの国鉄幹線として知られる国鉄ブリューニック線、変わったところでは苗木園の蒸機遊覧鉄道(シンツナッハ苗木園鉄道)など、日本で知られている以上にスイスの鉄道は多種多彩であることがわかります。
巻末のモノクロページには、スイスの鉄道政策から、車両技術の近年の傾向や形式記号の意味、ラック式鉄道の各方式の解説など、びっしりと情報が詰め込まれています。裏表紙一つ前のページには、代表車種の写真が36種掲載され、最後の最後までこれでもかと言わんばかりの情報量です。
全編、鉄道ファンが気になるツボをしっぱり押さえた解説で、どうしても一般の旅行者向けとなりがちな他のスイス鉄道本とは一線を画した、充実した内容です。
唯一不足を感じるのは路線図が簡単なものしかない点ですが、幸いにも以前ご紹介した『Eisenbahnatlas Schweitz』というイイ本がありますから、あわせて手元に置いておかれれば、本書を読む楽しみは倍加されるでしょう。
ただ残念なことに、2013年現在、本書は新品での入手に難があるようですね。和書では唯一無二の内容ですので、増刷なり新版が出るなりするといいのですが……。
投稿者「ふくだはるき」のアーカイブ
【車両紹介】ワルシャワ市電の車両たち2011:コンスタル116N/ Rolling stock of Warsaw tram in 2011 : Konstal 116N
1998年から製造された部分低床車。日本では部分低床車の評判はいまいちですが、ワルシャワ市電は信用乗車方式となっており、運賃支払いのため車内を移動する必要がないので、部分低床車でも十分に機能を果たしています。
116Nは、その中でさらに116Nと116Naに形式が分かれており、116Naは116Nに比べるとモーター出力がアップしている(50kW×4から75kW×4へ)ことや、誘導電動機を採用していることが相違点です。在籍車のほとんどは116Naで、116Nは1編成のみです。
全長24mの3連接車で、この後導入されたPESA 120Nが30m級なのに比べるとやや小型ですが、複数編成を連結しての運転は行っていません。
この形式の前には、112Nという全長20mの2連接車も製造されましたが、1編成のみの導入にとどまっていますので、試験的な存在のようです。
最前部と最後部の台車、計4軸が駆動軸となっています。2000年までに約30編成が導入されており、訪問時は目抜き通りであるイェロゾリムスキェ通りを通る路線を中心に運用されていました。
【本の紹介】Eisenbahnatlas Schweitz(スイス鉄道地図帳)
世界有数の鉄道王国のひとつ、スイスの鉄道を完全網羅した鉄道地図。
鉄道地図は世に数あれど、この『Eisenbahnatlas』シリーズの完全網羅っぷりは半端ではありません。
いま存在している国鉄・私鉄の路線はもちろんのこと、路面電車やケーブルカーにリフト、さらに工場専用線の類まで、本当にありとあらゆる鉄道が網羅されています。さらに、廃止された路線についてもきっちり地図上に描かれているうえ、廃止年と事業者名までわかるというものです。
【車両紹介】ワルシャワ市電の車両たち2011:コンスタル105Na/ Rolling stock of Warsaw tram in 2011 : Konstal 105Na
コンスタル105Na。ヘッドライトケースは原型の四角いもの。ドアの下半分には窓がない。現地ファンサイトによると、これはどうも後天的な改造によるものの模様。
A 105Na with square headlight.
ワルシャワ市電の最大勢力です。
いわゆる「角タトラ」(タトラT5・T6シリーズ)に酷似した外観ですが、ポーランドの国産車となっています。1979年から1992年までの長きにわたって、約2000両(メーターゲージ路線向けの、805Na型も含んだ数)が生産され、ポーランドのほとんどの市電において、その姿を多数目にすることができます。
この車種は、前回ご紹介した13Nを基本として、電機品の改良・車体デザインの変更を行ったものです。特に車体では、デザインの変更とともにドア数の増加が印象的です。客用扉は4扉となり、一面ドアだらけといった風情の外観になっています。また13Nのドアが4枚折戸だったのに対し、105Naはグライトスライド扉となっています。
車内は一人掛けの前向きシートが並び、天井には直方体のカバーに覆われた蛍光灯が並びます。13Nと同じく実用一点張りで全く飾り気のないデザインです。
105Naの車内。下回りの更新を受けた「105N1k」と称するタイプのもので、車内はあまり手を加えられていないが、電光案内装置の設置が行われている。
Interior of 105Na. Passenger information display is added.
13Nがもっぱら2両連結で運行されているのに対し、105Naは休日などに一部の系統で単車運転が行われています。ワルシャワでは、市電の路線のあるところどこでも見かけることができました。
コンスタル105Naはなにしろ両数が多いうえ、共産主義政権の崩壊後、経済環境やら技術水準やら生活水準やらが激変したこともあって、多種多様なバリエーションが生じていおり、趣味的にも大変興味深いものとなっています。
その全容を短い滞在で把握することは出来ませんでしたが、以下にバリエーションの数々をご紹介します。
【車両紹介】ワルシャワ市電の車両たち2011:コンスタル13N/ Rolling stock of Warsaw tram in 2011 : Konstal 13N
コンスタル13N。ヘッドライトが角形のものに換装されている。Stare Miasto電停にて。
Konstal 13N at Stare Miasto. Headlight was changed to square lamp.
1959年から製造された車両で、アメリカで生まれたPCCカーの流れを汲む、高性能路面電車初期の車両です。これまでの車両は、戦前からの延長線上にある吊り掛け駆動の四輪単車で、電動車が1~数両のトレーラーを牽くスタイルだったのに対し、コンスタル13Nではカルダン駆動で大型車体のボギー車と、格段に近代化がなされました。
四輪単車では、モーターが60kW程度×2の電動車がトレーラーまで牽引していたのに対し、コンスタル13Nでは41.5kW×4で、しかもトレーラーはなく連結運転時も全電動車編成となりますので、性能面でも大きく向上しています。実際乗車してみるとたいへんな高加減速車で、立っている時は手すりに掴まらないと確実によろけてしまうほどでした。
チェコスロバキアで生産された、所謂「タトラカー」の元祖であるタトラT1型と類似した車両です。タトラT1は2両だけがワルシャワにも投入され、1956年から1968年まで使用されました。ポーランドの他都市でも、同世代の車両は2011年時点でほぼ淘汰されており、まとまった数で残っていたワルシャワは珍しい存在です。
ちなみにワルシャワ以外の都市では、単車タイプの13Nではなく、2両連接車タイプのコンスタル102N・102Naが多く投入されていました。
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【音】近鉄内部・八王子線 モ260型/ [Sound] Kintetsu Utsube line, One of three Japanese 762mm gauge railways.
[audio:http://tramsound.sakura.ne.jp/sound/blog/201304Kintetsu_utsube.mp3|animation=no]
【音】近鉄内部・八王子線 モ260型 西日野→近鉄四日市
[Sound] Kintetsu Utsube line, type MO260, Nishi-hino -> Kintetsu-Yokkaichi
上:分岐駅日永を発車する四日市行き列車。
下:日永駅に咲く桜。来年もこの光景は見られるでしょうか。
Above:Hinaga station. This is junction of Utsube line and Hachioji branch line.
Below:Cherry blossom at Hinaga station.
最近存廃が取りざたされている、近鉄内部・八王子線を訪問してきました。こちらはその際の録音になります。
西日野発近鉄四日市行きで収録しました。一応全区間走行音ではありますが、所要時間は僅かに9分と極めて短いものです。
収録したのは学校が春休みとなっている平日の昼間ですが、それでも四日市到着時にはおよそ20人の乗客となっており、僅か3駅だけ走る列車の割にはよく乗っている方だと思います。
皆様ご存じの通り、本路線の電動車は全車吊り掛け車ですので、この録音でもモーター音がお楽しみいただけるほか、ロングレール化も進んでいないため賑やかなジョイント音も聞くことができます。
Utsube line is one of three 762mm gauge railways in Japan.
Utsube line is 5.7km line with 1.3km branch line(Hachioji line), operated by Kintetsu corporation.
This is suburban railway in Yokkaichi city(Population is approx. 300000) with approx. 10000 passengers per day.
I recorded the sound of Utsube line in March 2013.
I recorded type MO260 EMU with nose-suspension drive. Type MO260 was made in 1982-1983. All motor cars in Utsube line is unified by type MO260. Another old motor cars were modified to trailer.
Unfortunately, replacement plan is discussed due to few income(operation loss is approx. 300000000 yen per year) and decrease of passenger density. However, the discussion is having a rough road ahead. Kintetsu hopes replace Utsube line to busway. But Yokkaichi city says “Don’t replace important public transport, Utsube line. But We don’t have a money for Utsube line”.
【本の紹介】昭和時代の新京成電車(RMライブラリー)
現在の新京成電鉄は、インバーター制御のステンレスカーが多数在籍する近代的な車両陣となっていて、大手私鉄に比肩するものとなっていますが、昭和60年代までは吊り掛け車を8両も連ねたいささか垢抜けない色の列車が、モーター音も高らかに走っていました。
そして昭和20年代ともなれば、畑や雑木林の中を木造電車が走っているという、現在の姿からは想像もできない、とんでもない田舎電車だったようです。
本書では、そんな時代の新京成電鉄の吊り掛け電車を、ベテランファンが開業以来の全車種に渡って紹介しています。
800型・8000型あたりからの新京成の電車は、様々な文献で紹介されていますが、創業が新しい割には旧型電車を扱った文献は少なく(皆無ではないですが入手性に難があったり……)、網羅的に解説された本書はありがたい存在です。
【車両紹介】ワルシャワ市電の車両たち2011:概説/ Rolling stock of Warsaw tram in 2011 : Overview
市内中心部、文化科学宮殿を背景に走るコンスタル13N。Centrum電停付近にて撮影。
Konstal 13N runs in Centrum. Buckground is Palace of Culture and Science
2011年、ワルシャワを訪問しました。ここでは「トラムのひびき」サイトの補足として、ワルシャワ市電の車両について解説します。まずは概説から。
基本的に2011年1月現在の情報ですが、車両数の情報については当時の情報が分からないため、2013年2月現在の情報です。情報が混在してわかりにくいかと思いますが、ご勘弁下さい。
2011年現在、ワルシャワ市電の車両は大きく分けて5種類でした。コンスタル13N、コンスタル105Na、FPS 123N、コンスタル116Na、PESA 120Nです。
うちコンスタル13Nは、2012年12月に全車営業から退いています。
コンスタル13N、コンスタル105Na、FPS 123Nは全長13m級の単車、コンスタル116Naは全長24m、PESA120Nは全長30m級の連接車です。単車は2両連結で運行されている場合がほとんど(休日などは一部系統で単行運転)で、結果的にコンスタル116Naだけが若干輸送力が小さいことになります。
総車両数は約750両(単車は一台を1両、連接車は一編成を1両として数えた場合。両数のデータだけは2013年2月現在です)で、最大勢力はコンスタル105Naとその改造車ですが、超低床車であるPESA 120Nが急速に勢力を拡大しており、2013年2月現在で160編成あります。最も少ないのはコンスタル116Nの約30編成・FPS 123Nの30両です。
両数のデータは、訪問時(2011年現在)のものが得られなかったため、コンスタル13Nの在籍数は不明です。2011年の訪問時は、コンスタル116Nよりも頻繁に見かけましたので、晩年まで結構な両数が残っていたのでしょう。
ほとんどの車両は片運転台で、乗降扉も進行方向右側の側面にのみ存在しますが、一部のPESA 120N(2013年2月現在、6編成のみ)では両運転台・両側ドアとなっています。
塗装は全車とも黄色/赤色のツートンカラーで、ワルシャワ市旗と同色です。市内バスも同じ色に揃えられています。
追って、各車種ごとの詳細な解説をアップしていく予定です。
【本の紹介】URBAN RAIL DOWN UNDER(オセアニアの都市鉄道)
ダウンアンダー、つまり(欧州から見た)地球の裏側、すなわちオーストラリアとニュージーランドの都市鉄道にスポットを当てた本です。
前回ご紹介した本と同じロバート・シュヴァンドル氏によるもので、紹介されている都市はオーストラリアのパース、アデレード、メルボルン、シドニー、ブリスベン、ゴールドコーストと、ニュージーランドのオークランド、ウエリントン、クライストチャーチです。
貨物はともかく旅客輸送の分野においては、鉄道が実用的な交通機関の体をなしていないイメージすらある両国ですが、特にオーストラリアにおいては都市鉄道が充実しており、またニュージーランドにおいても、都市交通として無視できない質と量で近距離鉄道が運行されていることが、本書によりわかります。
【音】東横線渋谷駅 高架ホーム/ [Sound] Shibuya station, former eleveted platform of Toyoko line
[SOUND] Shibuya station, eleveted patforms of Toyoko line.
(約12分/ approx. 12 minuts)
上 : いつも乗客で賑わっていたホーム。 下 : 惜別ヘッドマークを付けた9000系。一般乗客の注目も集めていました。
Above : Former elevated platform. The platform was so busy anytime.
Below : The series9000 train with plate. The plate said “Goodbye series9000 on Toyoko line”.
2013年3月15日、多数の人に見守られて廃止となった、東急東横線渋谷駅高架ホームの音を収録しました。廃止一週間前の夕方の録音で、家路を急ぐ人々で下り電車は混雑していました。
副都心線直通開始を前にして、ほとんどの列車は5000系列で運転されていましたが、一本だけ運用に入っていた9000系の発車シーンも収録されています。最終日の人出はそれはそれは大変なものだったようですが、この日もすでに多数の人がカメラや携帯電話で撮影するようになっており、出入りする列車は頻繁に警笛を鳴らしていました。
とはいえ、全体的な雰囲気はまだまだ日常の渋谷駅のそれで、ゆっくりと出入りする電車のジョイント音と、いつも通りのざわめきをお楽しみ下さい。
On 16 March 2013, through service from Toyoko line to Subway Fukutoshin line was started. At the same time, elevated platforms closed its 85 years of history. In the midnight on last day(15 March), about half a thousand peoples took a picture of platforms and trains.
Also, series9000 trains were withdrawn from Toyoko line service at the same time. Series9000 is first generation of Japanese inverter controlled EMU. Sound when the series9000 starts and stops is unique. This sound is popular with railway enthusiast.
I recorded the soundscape on elevated platforms at 1 week ago. You can listen announcement, noise from train motors and rail joints, and footsteps of passengers. Also, leaving of former series9000 train was recorded.
In some days ago of recording, the melody before train arrival annoucement was introduced. It was one of commemoration acts of closure. Of course, you can listen the melody in this sound.