世界有数の鉄道王国のひとつ、スイスの鉄道を完全網羅した鉄道地図。
鉄道地図は世に数あれど、この『Eisenbahnatlas』シリーズの完全網羅っぷりは半端ではありません。
いま存在している国鉄・私鉄の路線はもちろんのこと、路面電車やケーブルカーにリフト、さらに工場専用線の類まで、本当にありとあらゆる鉄道が網羅されています。さらに、廃止された路線についてもきっちり地図上に描かれているうえ、廃止年と事業者名までわかるというものです。
●これでもばかりと詰め込まれた情報量
各路線とも、単線/複線の別、電化方式の別がわかり、駅については交換可否もわかるなど、これでもかとばかりに情報が詰め込まれています。もちろん、スイス名物ラック式鉄道やナローゲージ鉄道も明示され、ラック式鉄道ならばどの方式(アプト式・リッゲンバッハ式など)を採用しているか、ナローゲージ鉄道ならば軌間が何ミリかも情報として盛り込まれています。
『Eisenbahnatlas』シリーズは他にドイツ版(Eisenbahnatlas Deutschland 2011/2012
)やイタリア・スロベニア版(Eisenbahnatlas Italien und Slowenien
)などもありますが、このスイス版の楽しみは、何といっても多種多様な規格で個性的な私鉄群や、曲がりくねりトンネルを穿ちながら苦労して山を越える路線たちでしょう。
●地図から見つけ出す、個性的な路線の数々
わずか2駅間の1路線だけを持つベルクバーン・ライネック-ヴァルツェンハウゼン(Bergbahn Rheineck-Walzenhausen)、大都市チューリッヒ近郊路線なのに最急勾配79‰で、おまけに孤立した1200V電化のユトリベルク線(Uetlibergbahn)、フランス領内に越境して走る「国際市電」となっているバーゼルラント交通(Baselland Transport)など、個性的な鉄道を地図の中からいくつも探し出すことができます。
急勾配・急カーブの山岳路線は、それはもう枚挙にいとまがないほど載っています。
有名なベルニナ線(Berninabahn)の沿線を地図で見れば、素晴らしい車窓風景が(天気さえ良ければ)約束されていることを再認識できますし、フルカ峠旧線の曲がりくねった保存鉄道(Furka-Dampfbahn)と、その線路脇に付された蒸気機関車運転のマーク(蒸機を用いる保存鉄道は、その旨を示すマークが付けられています)を見れば、峠越えの険路に挑む蒸気機関車の雄姿が頭に浮かんできます。
なお、本書を楽しむのに語学力は不要です。凡例を読むのに若干の単語を知っている必要がある程度で、本ブログの読者の皆様なら、それすら大体内容は察せられましょう。
●どんな車両が走っているのか気になったら……
ちなみにこういった鉄道地図を見ていると、「この路線気になるな……。どんな車両が走っているのだろうか? どんな客が乗るのか?」などといった思いにかられることがありますが、スイスに関しては『スイスの鉄道』(長真弓著)という素晴らしい本があり、鉄道ファンが気にしそうな路線はほとんど解説されています。両方揃えれば楽しみは倍増、あるいは相乗効果で3倍増となること間違いありません。
※本書には邦題はありません。『スイス鉄道地図帳』とは、理解しやすいように便宜的に表記したものです。