現在の新京成電鉄は、インバーター制御のステンレスカーが多数在籍する近代的な車両陣となっていて、大手私鉄に比肩するものとなっていますが、昭和60年代までは吊り掛け車を8両も連ねたいささか垢抜けない色の列車が、モーター音も高らかに走っていました。
そして昭和20年代ともなれば、畑や雑木林の中を木造電車が走っているという、現在の姿からは想像もできない、とんでもない田舎電車だったようです。
本書では、そんな時代の新京成電鉄の吊り掛け電車を、ベテランファンが開業以来の全車種に渡って紹介しています。
800型・8000型あたりからの新京成の電車は、様々な文献で紹介されていますが、創業が新しい割には旧型電車を扱った文献は少なく(皆無ではないですが入手性に難があったり……)、網羅的に解説された本書はありがたい存在です。
個人的には、昭和40年代からの更新車のちょっと野暮ったいスタイルが好きで、大体統一された外観ながら種車・更新時期により若干の差が出ているのも魅力的なところです。本書では、雨樋が数両だけ違う位置にあったり、一部のグループのベンチレータが埋め込み式だったりといった、更新車の微妙な差異もきちんと解説されており、統一感を出そうとしても統一しきれない微妙なゴチャゴチャ感が楽しめます。また1両だけアルミカーに更新された車両があったことは、私は本書により初めて知った、意外な事実です。
ただ、少しだけ残念な点が2つほどあります。
一つは、車両の登場・改造・廃車といった情報が表にまとめられておらず全て文章で記述されていることです。「○○号~△△号はいついつに登場し、うち□□号はいついつに改造され、○○号~◇◇号はいついつ廃車となった」といった具合に文章で記述されると、だんだん全体像が分からなくなって頭が混乱してきます。たぶん、著者は全て頭に入っているので、気付かずつらつら文章にしてしまったんだと思いますが……。
もう一つは、内容のどの部分が資料による情報で、どの部分が筆者の実地調査等による情報なのか、区別して書かれていない点で、ここがしっかりしていれば後から車両史を研究したい人にとってもより親切な内容となったことでしょう。