2010年の夏、ベルリン東郊のさらに東を走る保存鉄道、ブッコー小鉄道(Buckower Kleinbahn)に乗りに行きました。
総延長はわずかに4.9km、沿線に観光地や有名撮影スポットがあるわけでもないこの鉄道になぜ乗りに行ったかといえば、279型なる小型電車が走っているらしいからです。その小さな姿も魅力なら、直流750V駆動・全長15mの二軸車という地方私鉄然とした車両ながら、れっきとした国鉄電車として生を受けたという点も面白く、ぜひ乗ってみたいと思っていたのでした。
この279型、走っているのはドイツ国内でたった二箇所だけで、ひとつはオーベルバイスバッハ山岳鉄道というドイツ中部テューリンゲン州の小路線で、もうひとつがブッコー小鉄道です。この旅行ではベルリンにしばらく滞在したので、ベルリンから容易に訪問可能なこの路線を訪ねることにしました。
この鉄道について日本語の情報は限りなく皆無に近く(「官製地図を求めて」に若干の情報があります)、たぶん本記事が日本初の訪問記ではないかと思います。ひょっとすると日本人の訪問自体初めてではないかという気がしますが、どうなんでしょうね。
さて、ブッコー小鉄道の始発駅ミュンヘベルク(Müncheberg)へは、ベルリン東部のターミナル駅、リヒテンベルク駅からローカル列車に乗ります。東西ドイツ分断時代は、長距離列車の発着駅として賑わったらしいのですが、現在はローカル列車とSバーンのみの発着で、長いホームと大きな駅舎を持て余しています。駅舎には「駅ナカ」もあるのですが、空き店舗もちらほら。
構内の端には旧東ドイツ国鉄が誇った特急気動車VT18が保存されていますが、コンディションはちょっとさびしい状態。
ここから出ているローカル線の一つが、ポーランド・コストシン(Kostrzyn)へ向かう系統です。この路線は「オストバーン(Ostbahn。東方鉄道の意)」と称され、そのまままっすぐ東へ向かうと、バルト海沿いのグダンスク Gdańsk(ドイツ語名ダンツィヒ Danzig)、ロシアの飛び地カリーニングラード Калининград(ドイツ語名ケーニヒスベルク Königsberg)まで線路がつながっています。第二次大戦前はいずれもドイツ領だったことから、重要な幹線だった筈ですが、現在は写真の通り2両編成の普通列車が往来するローカル線に成り下がっています。
行先は「Kostrzyn(PL)」と、ポーランドであることを強調して表示しており、車内放送も2ヶ国語で、鈍行とはいえ一応国際列車です。
リヒテンベルクを発車して30分ほど、ディーゼルカーはまっすぐな線路を快調に飛ばし、ミュンヘベルクへ到着しました。連絡通路には、ブッコー小鉄道の看板が出ており、それにしたがって連絡通路からホームへ上がると、客を待っていた車掌が「ハロー」と挨拶して迎えてくれます。
そしていよいよ279型との対面、と思ったのですが……
なんと、そこに停まっていたのはレールバスでした。ショック!
帰国してから調べたところによれば、2010年6月にトロリー線の盗難に遭ってしまい、やむなく電車運転を休止しているところだったようです(ちなみに2011年には修復され、電車運転に戻っています)。
とはいえ、いまどきこの古いレールバスに乗れるのも貴重ですので、気を取り直して乗ってみます。