【本の紹介】インドネシア鉄道の旅 – 魅惑のトレイン・ワールド(古賀俊行著)

●インドネシアの鉄道に関しては決定版か
ジャカルタ首都圏への日本中古電車投入で注目を浴びるインドネシアですが、それだけがインドネシアの鉄道じゃないんだということを認識させてくれる本です。インドネシアの鉄道の総延長は約4000kmとのことで、幹線には客車を何両も連ねた優等列車が走り回り、ジャカルタでは10両編成の通勤電車が活躍と、東南アジアでは有数の鉄道大国と言えそうです。
本書のページ数は300ページ近くあり、その中にぎっしりと情報が詰め込まれていて、インドネシアの鉄道についてはおそらく決定版と言える内容です。

●「鉄道の旅」だけに留まらない内容
タイトルこそ『インドネシア鉄道の旅』という、一見旅行記的なものですが、内容はインドネシアの鉄道についてあらゆる内容を網羅しており、「旅」だけに留まりません。
インドネシアにおける鉄道の歴史、幹線鉄道の概要、路線図といった総説的なところはもちろんのこと、国鉄ほぼ全路線の概要や乗車記、各車両形式についての解説なども掲載されています。日本人鉄道ファンに人気のジャボデタベック電鉄線についてももちろん掲載されており、車両解説や沿線風景などが約20ページを割いて書かれています。ジャボデタベックの鉄道というと、日本に入ってくる情報はどうしても日本製中古電車の現状が中心になってしまいますが、本書では創業期からの電鉄線の歴史や、工事中の地下鉄プロジェクトなど、他では取り上げられにくい内容も載っています。
一方、都営地下鉄からの電車が初めてジャカルタに渡るまでは、インドネシアの鉄道といえば製糖工場の蒸気機関車が日本ではよく取り上げられていた記憶がありますが、こちらについても、今でも蒸気機関車を有する14箇所の製糖工場を紹介しています。バラストが殆ど無いヘロヘロ線路を小さな蒸気機関車が走る魅力的な写真が何枚も掲載されているばかりでなく、親切にも稼働中の蒸機に出会える可能性、行き方の難易度まで分かるよう書かれています。

●日本では殆ど知られていない鉄道も
路面電車好きとしては、ジャカルタ・スラバヤ両都市に存在した路面電車についての記事が興味深く、それぞれ数ページの扱いではありますが通史と路線図が載っています。日本では存在自体があまり有名ではない(現存しないから当然ですが)ゆえ、ネットでも断片的な写真は簡単に見つかりますが歴史を体系的に知るのはやや難しく、それを知ることのできる(それも日本語で)本書は貴重です。
また本書に取り上げられている鉄道の中でもっとも日本での知名度が低く、かつ強烈と感じられたのが、スマトラ島の奥地、電気もないような山奥へ向かうというナローゲージ鉄道で、役割としては北海道の殖民軌道をジャングルの中に走らせたようなものでしょうか。
もっともその実態は日本では考えられないような代物の模様で、30kmそこそこの距離を2時間半もかけて結び、車両にガラスは元々無さそうで、丸太の仮橋があったり、レールが欠落しているところをそのまま走ったりと、とんでもない内容がこれでもかと描写されています。

●痒いところに手が届く(?)豊富なコラム記事
本書の後半には「ちょっと途中下車、コラムいろいろ」と題した章がありますが、これが本当に幅広くいろいろ、かつ鉄道ファンの気になる点を見事にカバーした内容です。
現地の鉄道趣味事情と鉄道雑誌出版社訪問記、といった柔らかい話から、列車愛称名の付け方、車番の付与法則、車両メーカー・鉄道工場訪問記といった趣味的には王道といえる内容、堅いところでは日本からの経済援助による鉄道近代化(これがジャボデタベック電鉄の近代化に大きく関わってきましたから重要な話です)といった話まで、興味は尽きません。変わったところでは国鉄宇高連絡船の中古船乗船記といった話まで掲載されています。
そして巻末には国鉄全線時刻表(流石にジャカルタ近郊電車は載っていませんが)と路線図、鉄道関連単語・会話集が収録されています。単語集には「きっぷ売り場」「一等車」といったものばかりでなく、「扇形機関庫」「救援車」「複々線」といった専門用語も掲載されているのが興味深いところです。

全編を通じ、鉄道ファンが知りたいと思う内容は殆ど網羅されていると言っても過言ではなく、海外鉄道書としては出色の出来といっても良いと思います。これで定価1900円はお買い得です。

ちなみに筆者の方はブログもお持ちです。合わせてご覧になるとより楽しめるでしょう。

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