【本の紹介】Das Berliner U- und S-Bahnnetz(ベルリンU・Sバーン路線図)

最初に申し上げておきますが、これからご紹介するのはベルリンの歴史的な鉄道路線図についての本です。
最新版の路線図については、公式サイトをご覧下さい。Sバーン(近郊電車)・Uバーン(地下鉄)いずれの公式サイトでも、鉄道路線図がご覧になれます。トップページからお探しの場合は、「Liniennetz」と書かれたところが路線図ページへのリンクになります。目的別に何種類かありますが、一般的な電車・地下鉄の路線図であれば以下のものがよいでしょう。
http://www.s-bahn-berlin.de/pdf/VBB-Liniennetz.PDF
また市内バスの路線図については、下記のページをご覧下さい。
http://www.fahrinfo-berlin.de/Fahrinfo/bin/query.bin/dn?ujm=1
なおこの地図は印刷に向いた形式(PDFなど)は提供されていません。どうしてもバス路線の入った紙の地図が欲しい場合は、現地で購入するか、またはBVGのオンラインショップから、紙の路線図(冊子タイプなら『Berlin Atlas und mehr』、一枚物なら『Berlin Liniennetz』)を注文するほかありません。

さて、上記のような最新版の路線図だけでは満足できないという、やや普通でない嗜好の方(例えば私とか)には、以下の本はいかがでしょう。


赤色基調の表紙は2007年版、緑色基調の表紙は2013年版です。


この本は、都市交通の黎明期(それも地下鉄開通といった時代ではなく馬車鉄道の時代)から、Sバーン・Uバーンといった近代的交通機関の登場、欧州の産業・文化の中心地として発展した1920年代、ナチス政権の下で首都整備を推進した1930年代、そして戦争と破滅を経て、世界に類を見ない分断都市となった冷戦期、ドイツ統一を経て現代までの、ベルリンの都市交通の路線図を掲載しています。

なお私が所持しているのは2007版(表紙が赤色基調のもの)ですので、本稿ではそれに基づいて記述しますが、2013年には改訂版(表紙が緑色基調のもの)が出されており、入手性はそちらのほうが良いと思います。

本書のタイトルは『U- und S-Bahnnetz(U・Sバーン路線図)』となっていますが、S・Uバーンとともに路面交通の役割も大きかった第二次大戦前については、馬車鉄道・路面電車の路線図も多数収録されています。
特に圧巻は、4ページにわたり載せられている1933年現在の市電・バス路線図で、ベルリンの市街地をびっしり路線が覆い尽くしており、また中心部では一つの街路に20近い系統が走っているところもざらで、ベルリンにおいて如何に路面交通の役割が大きかったか、実感できる図になっています。

もちろん、S・Uバーンの路線図は第二次大戦前のものも多数掲載されています。
ベルリンで地下鉄が市街全域にネットワークを広げるのは1930年代以後ですが、Sバーンのほうは戦前から既にかなりの路線網を持っており、1922年現在のベルリン周辺の配線図はこれまた圧巻です。配線図にはSバーンのほか長距離列車の線路も描かれており、各ターミナル駅ごとに線路がどっさり集積している様子が楽しめるほか、戦前のベルリンは現在のパリやロンドンと同様、方面別に複数のターミナル駅を持っていたこともこの図から読み取れます。

第二次大戦後については、東西ベルリンの分断の影響が如実に現れた路線図が次々に現れることが強い印象を与えます。
1961年までは東西の行き来が自由であったため、鉄道網としても一体で運行されていることがわかる1960年の図が掲載されていますが、このとき既に図中には東西の境界線が現れています。
分断後の1966年の路線図は、一体的に機能していた鉄道網が、人の流れとはお構いなしに断ち切られたことがはっきり読み取れる図になっています。
特に東ドイツエリアでは、郊外の始発駅から都心に向かうものの数駅で壁に当たって終点、という路線が数多く発生しており、一体こんな鉄道網で人々はどうやって移動したのか、運転系統はどんなものだったのかと頭を抱えたくなるような路線図になっています。
一方西ベルリンの路線図では、有名な「幽霊駅」の存在があちこちに現れており、これまた暗い気分にさせてくれるものになっています。
それでも西側の路線図では、いつの年代の路線図でもきちんと東ベルリン内の路線も掲載されているのに対し、東側の路線図では西ベルリンの路線は簡略化されていっています。西ドイツ国民は東ドイツに入国できたのに対し逆は不可能であったことから、「どうせ西には入れないし」という諦めのようなものを感じるのは私だけでしょうか。

特に1988年の路線図では、西ベルリンを単に「BERLIN(WEST)」と記した枠だけでの表現になってしまっていますが、そのわずか1年後に、ある一人の政府高官のうっかりミスが引き金となり、ベルリンの壁は崩壊します。

壁崩壊後の路線図では、幽霊駅は営業を再開し、休止線は順次復活するなど、ボロボロになっていた路線網が再生していくさまがはっきりと見て取れます。特にSバーン環状線は西半分が廃線となっており、統一当初の路線図では環状線の存在には一見して気付かない状態であるのに対し、後年になるとはっきりとその存在が浮かび上がってくるさまは鮮やかです。

なお本書では、路線図そのもののほかに解説も付されています。ボリュームとしては結構あるのですが、いかんせん私はドイツ語があまり読めないため、内容をご紹介することができません。ですが、ドイツ語が読めなくとも路線図を眺めるだけで相当楽しむことができます。
歴史の荒波をもろに被ってきたベルリンでは、そのことが路線図にはっきりと反映されており、図を見るだけであってもきわめて興味深い内容であることは間違いありません。

 

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