【本の紹介】U-Bahn, S-Bahn & Tram in Berlin(ベルリンの地下鉄・近郊電車・市電)

 「Urban Rail in Germany’s capital city」との副題がある通り、ドイツの首都ベルリンにおける、地下鉄(Uバーン)・近郊電車(Sバーン)・市電(トラム)の路線・運行形態・歴史・車両を解説した本です。
 ベルリンと言えば、冷戦時代にはベルリンの壁により隔てられていた、世界にも例を見ない分断都市として有名です。そのため、旧西ベルリンと旧東ベルリンでは、市電の路線の密度が全く違ったりしています。またSバーンには、同時期に西と東で開発された別々の車種が、今は同じ線路の上を走っているといったこともあります。
 一方戦前のベルリンは、欧州有数の産業・文化都市としての繁栄を謳歌したことから、UバーンやSバーンは相当規模の路線網を擁していました。現在でも当時の意匠を残した駅施設を多く目にすることができます。
 このようにベルリンの鉄道にはいろいろ見所があり、書籍も多数発売されてきているのですが、いかんせんほとんどがドイツ語で、日本語話者には敷居の高いものでした。この本はドイツ語・英語の併記になっており、英語テキストの方では難解な言い回しもあまり使われていないので、比較的内容を理解しやすいです。


●歴史 – 日本では考えられない記述の数々
 内容は、Uバーン・Sバーン・トラムともに、最初に全体の概要と歴史が解説され、続いてUバーンとSバーンについては、路線別の歴史と運行形態を解説しています。
 数奇な運命をたどってきた街だけに、歴史の記述は興味深いものです。Sバーンは西ベルリンでも東ドイツ国鉄が運営していたため、西ベルリン市民のボイコットにあった、とか、東ベルリン中心部から市電の路線を廃止した理由が、モータリゼーションではなく、共産主義的な街づくり(=権威主義的な景観づくり)をするためだった、とか、日本では考えられないような記述があちこちに出てきます。
●車両 – 戦前型の旧型車や四輪単車も
 歴史の次は車両の解説です。この著者の本では、車両の紹介は現行の車種のみとなっている場合が多いのですが、この本では過去の車両も含めて解説されているのが特徴です。さすがに市電については、歴史が長くて過去の車種が多すぎるため、概要だけの解説ですが、Sバーン・Uバーンについては、車種別にある程度の解説がなされています。
 Sバーンや市電については、東ドイツの経済的な行き詰まりを背景にかなり遅くまで旧型車が残っていたことから、リベットだらけの戦前型Sバーンや、四輪単車を連ねたトラムなどが比較的最近の写真にも多数登場しています。
 現行車種については、各車種とも1~2ページを割いて詳しく解説されています。特にUバーンの車両については、同一形式内で多くのバリエーションを持つものもある(A3型とかF型とか)ので、全体像が掴めるのはありがたいものです。ただ諸元表があれば、語学が苦手な私のような人間にとっても、より分かり易かったですが。
●郊外の小私鉄も
 またトラムの紹介はベルリンの市電だけでなく、旧東ベルリンの郊外にある魅力的な小鉄道である、ショーナイヘ・リューダースドルフ電気軌道、ヴォルタースドルフ電気軌道、シュトラウスベルク鉄道も扱っており、さらにポツダム市電についても述べられています。
 なお都市交通にスポットを当てた本ゆえ、中距離列車(RB・RE)の紹介はごくあっさりしたものであり、また長距離列車については殆ど言及されていませんので念のため。
●眺めるだけでも楽しい、多数の写真。
 全編とも、写真は多数掲載されており、パラパラとめくっていくだけでも楽しめます。車両をアップにした写真だけに偏らず、駅施設や市電の走る街路などの光景も多くあります。
 特に地下鉄は、創業期の面影を残すクラシックな駅から、アバンギャルドと言っても良い西ベルリンの駅などバラエティが豊かな光景が納められています。またトラムについては、車両とともに東ドイツ時代の町並みを捉えた写真も掲載されています。まるでモノクロ写真かと勘違いするような、陰鬱な色合いの町をトラムが走っていく写真は、非常に異様な光景で必見です。
 巻末は路線図が5面。中心部の路線網を縮尺通り表現したものが見開き2ページ、SバーンとUバーンの全路線を縮尺通り描いたものが各1ページ(計2面)で、最後の2つは、Sバーン・Uバーンの運行系統図が見開きで1面と、トラムの運行系統図がやはり見開きで1面です。なお最後の二つは公式サイトや駅で配布しているものと同一の路線図(2011年12月11日現在)です。
 欧州でも有数の規模を誇るベルリンの鉄道網ですが、押さえるべき所はしっかり押さえて網羅的に解説しており、ベルリンの鉄道に興味があるならとりあえずこれ一冊買えば間違いないでしょう。
※本書には邦題はありません。『ベルリンの地下鉄・近郊電車・市電』とは、理解しやすいよう便宜的に表記したものです。

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