●世界中を網羅した驚くべきボリューム
まさに圧倒的なボリュームの本です。世界50カ国400以上の都市の路面電車を紹介するという、おそらくは前代未聞と思われる企画で、これを筆者一人で訪問したというのですから驚くほかありません。
日本で紹介される海外の路面電車というと、LRT先進地域というべき西欧や北アメリカか、日本人でも身近な中国などの電車が多いですが、本書はそれらの国々は当然のこと、旧ソ連やトルコ、中東欧など、馴染みの薄い国々の路面電車も扱われています。
ロシアのマイナー都市や、ウクライナ、ブルガリア、カザフスタンなど、和書はもちろんネット上でも情報の少ない国・都市の電車が多数登場しており(流石に北朝鮮は扱われていませんが……)、これだけ情報の入手が容易になった昨今でも、まだまだ知らない電車がこんなにあるのか!と新鮮な気持ちにさせられます。
●数千枚が全てカラー
内容は各都市の電車の写真がひたすら並んでおり、それが全てカラー写真なのですから圧巻です。
写真はタトラカーがもっとも多く目に入り、世界の路面電車の主力は西欧のLRTではなく旧共産圏の路面電車だったのかと、認識を新たにさせられます。また事業用車の写真も掲載されており、日本以上の珍妙な姿に興味をそそられることも少なくありません。
写真に加えて、路線網の総延長や軌間、主力車種のメーカーなどの情報と、都市のごく簡単な紹介文が添えられています。
●写真の質と選定には残念な点も
ただし残念な点もいくつかあり、正直言って写真のクオリティはスナップ写真の域を出ていません。多くのページは電車を大きく写した写真ばかりで単調な印象があり、また同形式の車体広告違いを何枚も同アングルで撮った写真が(ひどいところでは10枚近く)掲載されているページや、片運転台車のお尻を大きく掲載しているページがあったりと、写真主体の本としては不満を覚えざるを得ない点もあります。
車両主体の写真は現在の半数程度で良いように思え、街並みの中を行く電車の写真もあれば、より価値が高まったでしょう。
データについても誤記が散見される(例えばライプツィヒやベルリンでゴータカーが「主な車両」に名を連ねていたり)、というか率直に言ってあちこち間違いだらけなのも残念なところです。また「路面電車」というカテゴリーに入れるにはかなり無理がある路線(メキシコシティのメトロやラスベガスのモノレール、銚子電鉄など)が入っており、このへんも一体どういう編集方針で作ったのか疑問が残るところです。
とはいえ、本書が和書では唯一の情報という路線が非常に多く収録されており、他に類書のない極めて独自性の高い内容であることは間違いないでしょう。