【本の紹介】地域再生の戦略(宇都宮浄人著)


公共交通の復権について多くの著作を持つ、宇都宮氏の新刊です。
本書の主旨は、これまでの宇都宮氏の著作と同じです。すなわち、「公共交通は単独の事業採算性だけで価値を判断すべきではない。赤字になりそうな路線は作らない、今赤字の路線は廃止する、でいいのか。それは日本の都市をダメにしているのではないか」ということです。
この問いかけは宇都宮氏の多くの著作の中で一貫して投げかけられていますが、本書ではそれについての解答にヒントとなりうる事実について、最新の情報を紹介しています。

日本では公共交通政策の先進事例というと富山市の取り組みが有名ですが、本書に取り上げられているのはそれだけではありません。特に前半は多くの都市の事例――それも成功事例だけでなく問題事例も――が紹介されており、例えばLRTの新規建設に一進一退の状況が続いていた宇都宮市について、何故今まで延々と停滞を続けていたのか解説されています。
また富山市の事例では、単に電車が便利になったというだけでなく、中心市街地の空き店舗率が僅かながら減少している、ライトレール沿線住民の外出が活発になっているというデータや、面白いところでは「ライトレール沿線ではのホールでは、コンサートの幕間のお酒の売上が増えた」といった効果が明らかにされており、公共交通の充実が都市のあり方に好影響を与え始めていることが述べられています。

上記のような事例を踏まえて、では日本の街(特に地方都市)の再生に公共交通を生かしていくにはいま何が問題なのか、ということまで本書は踏み込んでいます。
その一つとして、鉄道やバス路線の新設・存廃を狭義の採算性だけで判断する、というのはほとんど論外の域として本書で扱われていますが、移動が便利になる、街に人が集まるようになる、といった副次的効果を含めて判断するにしても、計算に入れられていない効果がまだまだ沢山あるのではないかと論じられています。
例えば先述した「富山ライトレールが開業したら、沿線住民の外出が活発になった。家に閉じこもっていることが減ったので、沿線住民の幸福度は上がったのではないか」といったことは、現在は経済効果として算定できていない状況にあるようです。しかし、そいうった問題に対して今後どう解決していったらいいのか、方向性が示されているのはこの著者ならではです。

それにしても、「公共交通のメリットは鉄道会社やバス会社が儲かるというだけでなく、社会全体に行き渡るのだから、社会のみんなで支えればいいじゃないか」というのは、考えてみればごくあたり前のことだと思うのですが、それを2015年の今になってもまだ書籍として世に問わなければいけないという事には、暗澹たる思いを抱かずにはいられません。

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