【本の紹介】福島尚鉄道画集 線路は続くよ


 鉄道画家として少しずつ知名度を上げている、福島尚氏の絵画集です。
 作者の地元である埼玉県の鉄道を中心に、主に関東と東北地方の鉄道を描いた絵画が58点収録されています。題材は作者にとって特に身近と思われる八高線と西武鉄道が多く、キハ35系や西武701系・401系、黒い貨車を連ねた貨物列車など地味な車両で、その他の題材でもEF57の荷物列車やED75の夜行急行など、華やかな素材はほとんど出てきません。しかし、だから絵から受ける印象が地味かというと全く逆で、列車の格好良さを最大限引き出した絵ばかりが掲載されています。
 特に列車の力強さを強く印象付けられる絵が多く、彩度を抑えた濃い目の色遣いとはっきりとした線がそれを強調しています。例えば西武701系が所沢駅に停車している絵など、ごくありきたりだった場面のはずですが、それがなぜか格好良く見えてくるから不思議です。

 本書の帯にもあるように、「まるで写真のような」と形容される実際の風景をそのまま写し取ってきたかのように見える絵ですが、構図は実際に見た風景をそのままに描いているとは限りません。
 例えば表紙になっている大宮駅の絵ですが、大宮駅といえども3列車同時進入、それもうち1列車は下りブルートレインなどという都合の良いことはそうそう起こりません。解説にもあるとおり作者の想像で描いています。
 ですが、いつも忙しく列車が行き交っている大宮駅を描くのであれば、やはり沢山の列車が行き交っていることを強調することで鉄道の格好良さを表現できるように私は思えます。実際の光景以上に格好良く描こうとする作者の姿勢には、非常に共感を覚えます。

 ただ、惜しいのは鉄道に詳しい人が編集に携わっていなさそうな点で、解説文などに誤りが散見されます。どう見ても西武451系を描いているのに解説が「701系」(p91)、旋回窓を「窓に船舶用扇風機が付いている」(p60)と表記するなどしています。帯のコピーも「まるで写真!細密すぎて凄い! --バラスト、動軸、架線…。」とありますが、外観にほぼ表れない「動軸」を、絵を表現するコピーに使うのも意味不明です(たぶん「車輪」あるいは「台車」のことを言いたいんだろうなとは思いますが)。
 絵は鉄道大好きな人が創っているのがひしひしと伝わるのに、本作りは鉄道にそんなに興味なさそうな人がやっているように感じられるので、鉄道好きとしては気勢が削がれるところでもあります。
(まあ編集者も仕事なので、鉄道好きでなければ鉄道書の編集をすべきでないとは思いませんが、本で扱っている主題に興味なさそうに感じられるとちょっと、という気分になりますし、明らかな誤りは直してから世に出すべきでしょう)

 とはいえ、絵そのものは素晴らしく、鉄道好きなら共感するところがそこらじゅうにある画集だと思いますので、買って損はありません。

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