【本の紹介】路面電車発展史(大賀寿郎著)

●他書にない内容が盛りだくさん
鉄道趣味誌ではあまり名前を見かけない著者、鉄道書の実績が決して多いとは言えない出版社から出る本と言うことで、正直なところ名前に見合った内容になっているのか不安に思いながらの購入だったのですが、不安は否定されました。
従来の鉄道書では詳細な技術や価値について語られる機会の少なかった、PCCカーとタトラカーを軸に、日本の路面電車との関係も記載した本で、他の本にない内容が盛りだくさんです。

●有名なPCCカーはなぜ成功したのかを詳説
路面電車黎明期から現代の超低床電車まで、技術の通史を繙こうと試みている本書ですが、特に大きな紙幅が割かれているのはPCCカーとタトラカーの誕生の経緯です。路面電車技術の一大飛躍となったPCCカーですが、それが何故必要とされたのか、どうして飛躍できたのか、どうして多くの都市で受け入れられたのか、明らかにされています。
例えば、技術的飛躍の重要な一要素である直角カルダン駆動ですが、これが実現できたのは当時のアメリカでは高精度の傘歯車が製造できていたことが要因のひとつであると書かれており、アメリカにおける基礎的な工業力の高さが貢献していることがわかり興味深い記述です。また導入後は収入増加に明らかな貢献があり、PCCカーを早期に集中投入したある路線では収入が実に1.3倍になったいうことで、全米に普及し、また日本を含む世界各地に影響を及ぼしたのも頷けるものがあります。

●和書では極めて珍しい、タトラカーの解説も
一方、世界で最も大量生産された路面電車といえばタトラカー、特にタトラT3(所謂「丸タトラ」)な訳ですが、「鉄のカーテン」の向こう側で造られたタトラカーがPCCカーとどのような技術的関係にあるのか、そしてPCCカーから受け継いだ技術をどのように発展させていったのかも詳述されています。
簡単に言えば「鉄のカーテン」が降りる直前に「すべり込みセーフ」でPCCカーのライセンスを買ったわけですが、この二者の関係は和書では殆ど見かけない記述です。恥ずかしながら私は「タトラカーはPCCカーのコピーで……」などと言われても今まで「本当かいな?」と思っていたわけですが、本書を読んで初めて、タトラがCCカーの技術を導入できた理由がわかりました。

●百花繚乱の超低床車の方式を図解
本書の最後は超低床車の解説ですが、最初期からの試行錯誤を反映した百花繚乱の各種方式をわかりやすく解説しています。超低床車と言えば欧州メーカーのシーメンス、ボンバルディア、アルストムの製品が有名ですが、各社の製品がモーターをどこに置いているか、どんな歯車の配置で駆動しているか、などは(多くの和書と異なり)具体的に図を用いて書かれています。またある名車両の「リトルダンサー」シリーズも、日本独特の方式をとっていることからやはり図入りで説明されており、海外勢との違いを比べるのも楽しいものです。超低床車に関しては、未だ「定番」と呼べる方式が出ていないことも本書で判り、まだまだ興味の種は尽きなさそうだなと感じられます。

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