【本の紹介】大分交通別大線(RMライブラリー)

かつて大分と別府を結んでいたインターアーバン、別大電車の本です。
沿線には温泉街あり、県都の繁華な市街地あり、車窓に別府湾が広がる海岸沿いの単線区間ありと、変化に富んだ車窓がある路線で、今でも残っていたらさぞかし楽しい路線だっただろうと思います。あいにく現役時代は知らない私ですが、本書には車両主体のものだけでなく沿線風景も取り入れた写真が多数掲載されており、沿線風景の多彩さは十分に伝わってきます。
また車両陣も個性的で、路面電車としては大柄な全長13m級の電車が日常的に連結運転を行っていたり、定員200人の永久連結車が走っていたり、また路面電車としてはきわめて珍しいM-M’ユニット車や、アルストム型台車を履いた車両があったりと、こちらもやはり、「今残っていたら……」という思いを抱かせるものです。車両は創業時からの全車種が網羅されており、形式写真も不鮮明なものはほとんどなく、全車種掲載されています。


車両の図面については、公式図面(車両竣工図表)がすべての車種分掲載されています。車両竣工図表に限らず、本書の内容には公文書を基にした記述が多数出てきており、きちんと一次資料を当たって執筆されていることが理解できます。また筆者の推測で書かれている部分は、きちんと推測であることがわかる書き方になっていることからも、内容の信頼性は高いと考えて良さそうです。
近年の鉄道ブーム以降、二次資料を基にしてお手軽に書かれた鉄道書が横行する中で、このようにきちんとした調査に基づいた内容をもった本が出されることは喜ばしくもあります。
本書の美点はそれだけではありません。
通常の鉄道趣味者向けの本が車両・ダイヤ・沿線の紹介といった内容にとどまることが多い(想定読者層的にそれでいい場合も多々ありますが)なか、経営面にも多くの紙幅を割いていることは大きな特色といえるでしょう。
それも何年度の利益は幾らで、といったデータだけにとどまらず、例えば、大正4年に大手電力会社と合併する際には好条件で合併しており、これは当時の同線のポテンシャルを示すもの……といったエピソードも語られており、往事の盛況が目に浮かぶ興味深い内容です。
決して分厚い本ではありませんが、情報の密度は高く、実物を目にできなかった私でもユニークなインターアーバンの姿を十分に堪能できました。

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