【本の紹介】Transit Maps of the World

その名の通り、世界中の路線図を集めた本です。対象としては地下鉄路線図が主で、地下鉄を有する世界のありとあらゆる都市の路線図が一冊に集められています。また一般的な地下鉄でなくても、一部に地下鉄っぽい区間がある路線――ドイツ各地のシュタットバーンや、広島のアストラムラインなど――も取り上げられています。

本書の構成は5章に分かれており、基本的には路線網の大きな都市から小さい都市へという流れです。とはいえ、単純に路線網の大きい順かというとそうでもなく、例えば最初の章ではベルリン、シカゴ、ロンドン、マドリード、モスクワ、ニューヨーク、パリ、東京が取り上げられており、大規模路線網を持ちつつも歴史の浅いソウル、メキシコシティなどは後ろの章へ回っています。つまり、路線網が大きくて、かつ歴史の長い都市のほうが取り上げるべきネタがいろいろあって面白いから、最初の方に持ってきたということなのでしょう。

事実、これらの都市の路線図は興味深いものが多数掲載されています。例えばベルリンでは東西分断時代の路線図が掲載されており、西ベルリン発行の路線図では東側の路線も描かれているのに、東ベルリン発行の路線図では西ベルリンの路線は完全に無視されていることがあったりします。またモスクワの路線図では、古い時代の路線図では実際の路線の形状にある程度忠実に描いていて、地上のランドマークも載っていたりしたのに、ある時代を境目に突然単純化され、環状線は真円で、放射線はほぼ直線で描かれるようになるなど、極端なまでの変化を起こしていたりします。
ロンドンの頁では、現代的路線図の元祖として有名なハリー・ベック作成の路線図が掲載されているのはもちろんのこと、その原案となったスケッチまでも収録されています。

その他のページも路線図が満載で、本当に世界中のあらゆる都市の路線図が載っています。日本で言えば札幌から福岡まで地下鉄のある全都市を網羅しているのはもちろん、那覇のモノレール路線図が入っていたり、川崎縦貫鉄道計画まで(文章のみですが)触れられていたりするくらいで、よくこれだけ集めたなと驚かざるを得ません。

一方解説のほうは、その都市の地下鉄の歴史や特徴を解説した内容と、掲載されている路線図の特徴を解説した内容が半々前後といったところです。後者の内容については、路線図そのものからも読み取れるものが多いので、もし英語が(私と同様に)苦手であれば、頑張って全部読まなくてもいいかもしれません。

また残念な点としては、スペース不足で字が潰れてしまっている路線図が多いことで、路線網が本書の判型に比べ巨大すぎたり、載せるべき図が多すぎたりとやむを得ない事情ではあるものの、思わず虫眼鏡を持ち出したくなる箇所が多い本でもあります。

とはいえ、見るべき内容はぎっしりで、地図や路線図が好きな方ならただ見るだけでも無限に時間が潰れてしまうこと請け合いです。

2016年追記:本書は2016年に日本語版が出版されました。「世界の美しい地下鉄マップ」というタイトルになっていまて、やや原書とややニュアンスが異なるタイトルですが、内容は原著とほぼ同じです。
これからお読みになる方は、日本語版をお求めになる方がお勧めです。

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